2022 中田のテーマを選ばれる前に

ミスマッチを防ぐために、私のテイストを事前に説明しておきたいと思います。以下が皆様の求めていることとあまりにも違う場合はテーマ決めに流されるのではなく事前に卒研の方向性について教員らと相談した方がよろしいかと思います。

現在、私は実験が可能な学問としてメタマテリアル全般に関心があります。メタマテリアルは古典物理に従うため、物理の観点からは一見自明とされることがありますが、実際は複雑な自由度が絡み、予想外の現象が生じ得ます。メタマテリアルを舞台に予想外の現象をアーティストのように表現することを常々の目標としています。その結果として人類の物理的知見や工学的限界を拡大したいと考えています。

特に量子力学との対応や双対性・相反性といった物理や工学全般を連ぬくようなメタ的視点を大切にしています。現象の背後にある普遍性が理解できたときに最も面白いという感覚を感じます。物理が伴なわない単なる工学的応用についての関心はそれほど高くはありません。工学的課題を設定する場合でも必ず背後にある物理について追求するように指導します。物理が好きなら楽しいと思いますが、物理に全く関心がないと辛いと思います。

私は理想的にはより根源的な問に答えたいと常々思っています。例えば現在であれば「金属は何故特別か?」とか「トポロジカル現象の本質とは何か?」といったものです。実際に設定されるテーマはこうした問から少し離れている場合もありますが、方向性は共有しています。もちろん問の立て方についても正解はありません。皆さんも自らの問を立てれるよう長期に渡り努力してください。

技術としてはレーザーを活用したテラヘルツ技術に強みがあります。光を使うため、通常の電子回路技術とは違った経験をつむことができます。実際の系を事前に見たい人はいってください。

私は通信系の技術には明るくないです。なのでそういった研究課題をご所望の場合は他の先生につかれた方がてっとり早いと思います。

研究では何かを勉強するだけではなく、(長い目で見て)新規なものを生み出せることを期待します。これまでの教科書的な勉強を超えて、自由に発想して理論・実験ともに手を動かしてください。理論をやる際は大きな目標を様々模索しつつ、具体的な小さな問題に制限し手と頭、あるいはコンピューターを働かせましょう。実験についてもいわずもがなです。手を動かしてみると素人の方がよい仕事をすることが多々あります。

理論・実験問わず常に新しいやり方や改善を模索してください。人と同じ典型的なやり方で問題にアプローチすると得られる結果の多くは新規でないことが多いです。理論では、定期的に新概念を仕入れ、具体的な問題に適用してみることが有用です。実験においては少しでも既存の系を良くしたりしながらも、大きな目線を持ち今やっていることとは異なる実験が可能かについて考えてください。実験において現象を解明する道具は自ら作り出す気概を持ってください。

実験室や部屋は常に綺麗に保ち他のメンバーの邪魔をしないようにしてください。たとえば工具が見つからなければそれだけ新しいやり方にトライする時間が失われます。部屋に段ボールがあふれていたらそこの場所を使うチャンスが失われます。これは面白くありません。

新規のものを作り出すためにはたくさんの失敗が伴うことが多いです。理論レベルですらボツになるアイディアの方がうまくいくものよりずっと多いと思います。実験でも、一発でものづくりができることは極めてまれです。様々な失敗から学ぶことが山程あります。沢山の失敗から学べたものだけが次のステップに進むことができます。

私は本質的には研究は各自の自由な考えで進めるべきものだと考えています。学生時代は京大で大変自由な環境で勉学・研究に励むことができました。こういった自由がなければ研究をやめていたかもしれないと感じています。実際に指導する側の立場になってからは、自分がいかに標準的な勉強コースにのっていなかったのかについて常々感じています。

私は上記のような環境で感性を育んできたため、ざっくばらんな議論を好むし研究を単調作業とは捉えていません。自由な環境に慣れてきたので政治的交渉や配慮などについてはまだあまり得意ではないと思います。研究では、問題の設定、実際の解く方法、理論、実験、発表、すべての面でクリエイティブな発想が要求されます。ある意味、中小企業を経営することに近いのかもしれません。

私は式の背後にある現象を直感的な言葉や絵で説明できるようにすることを意識的に指導します。これについては大学の力学の例がわかりやすいかなと思います。大学の力学では万有引力の法則から軌道の解を導き出します。この際、様々な計算テクニックを用いますが力学の本質はそこではないと思います。むしろ、以下のような直感を得ることが重要ではないでしょうか: 「我々が地球でボールをなげるような状況を想定し、そこから徐々にボールのスピードをあげていった際に、地球が丸いためボールが落ち続けることができる。それによって周回軌道を描く。月や地球自身も同じである。」こうした理解によって地上と天空が統一されたわけです。詳細を知りたくなれば、微分方程式を解けばよい、という理解にみなさんすでになっていると思います。理論解析が先行する場合もありますが、最終的に得られた結果を常に解釈し、自らの物理的直感を更新するようにしてください。直感があいまいな所に物理や工学のタネが眠っていることがよくあります。メタマテリアルでも負屈折材料は我々の直感を試すものでしたが、実験的な実証も行われ現在は広く受け入れられています。こうした人類の直感を更新するような研究に私は魅力を感じます。

皆さんには定例の研究ミーティングに参加することと、人としての道義を通すことを求めます。ミーティングで指摘された事について真面目に検討しないで放置する人が散見されますが毎回真剣に向き合い改善するように努力してください。後者については「約束は守るように」ということを意味します。これは前者とも関連する内容です。自ら課した言動を後で理由なく変えることに対しては何度も繰り返し指摘します。やると一度決めたことは失敗してもよいので毎回しっかりやりきってください。やる価値がないと感じるなら、宣言する前に事前に議論し妥当な方向性や方法を模索すべきです。そうした議論は歓迎いたします。

私は私の感性によって研究が発展する方向性を模索しますが、必ずしもそれに従う必要はありません。その場合は自身で追求すべき道を提示して頂ければ進んで議論にのりたいと思っています。

研究ミーティングやセミナーについては自らに曖昧さがないよう可能な限り準備して臨んでください。理系の研究室一般の教育として、常に定量的なことを求めます。どちらとも取れるような曖昧な内容を発表する場合は常に指摘します。研究段階では未解明なことを扱いますのではっきりしないことがでてきますが、それを少しでもなくすよう日々努力してください。こうした姿勢こそが新しい世界を作ります。

一方、定量性のみに拘りすぎると、木を見て森を見ずになる危険性もあります。すなわち、安易に定量化できるような簡単な所だけを見る危険性があるということです。こうした状況を打破するために、新分野を開拓するような思想的な議論についても歓迎します。

バイトなどは経済的事情などから仕方ない面があろうかと思います。しかしながら、研究には膨大な時間がかかるものです。しかも、かけた時間に対して結果は比例するのではなく、一般的に最初の立ち上がりは遅く、そこを上手くのりきったときに急速に発展し面白さを感じるものです。結果から辿れば簡単そうに見える答えにも、辿りつくためには膨大な時間が必要とされます。このことを忘れないでください。

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